愛宕山円福寺毘沙門の使は毎歳正月三日に修行す
 女坂の上愛宕やといへる茗肆のあるし旧例にてこれを勤む この日寺主を
 始とし支院よりも出頭してその次第により座を儲け強飯を餐す 半に至る頃
 この毘沙門の使と称する者麻上下を着し長き太刀を佩雷槌を差添又大なる
 飯かいを杖に突初春の飾り者にて兜を造り是を冠る 相従ふもの三人共に本殿より
 男坂を下り円福寺に入て此席に至り俎板によりて彳み飯かいをもて三度魚板を
 つきならして曰
 まかり出たる者は毘沙門の御使院家役者をはしめ寺中の面々長屋の所化とも
 勝手の諸役人に至る迄新参は九杯古参は七杯御飲みやれゝゝゝおのみやらんに
 よっては此杓子を以て御まねき申すか返答はいかん
 といふ時其一臈たるもの答て曰
 吉礼の通りみなたへふするにて候へと云々
 しからは毘沙門の使は罷帰るて御座あるといひて本殿へ立帰る