此地にて製する所の麦藁細工の角兵衛獅子は
昔四っ家町に住せし久米女といへる者 壱人の母に孝なり
家元より貧しく孝養心のままにならぬをなけき
常に当所の鬼子母神へ詣し 深く此事を祈りしに
寛延二年の夏ふと思ひつきた麦藁もて
手遊びの角兵衛獅子の形を造り 是を当所に手商ひしに
其頃は殊に参詣多かりしかは求むる人夥しく
竟にこの獅子の為にその身栄へ心易く母を養ひたりしとそ
至孝の徳 尊神の冥徳にかなひしものなるべし