「月桂」と聞いて殆どの人がイメージするのは、オリンピックなどの運動競技の勝者に冠らせる「月桂冠」であり、これを引用した日本酒の銘柄である。月桂冠は、月桂樹の枝で作られているための呼称で、英語では冠も樹もLaurelである。
Laurelが日本に紹介されたのは明治末で、島子の院号に使われた「月桂」は月桂樹から来たものではない。 古代中国は想像上の珍獣や植物をいくつも作った。「桂」もそのひとつで、月に生えているこの宝樹は、秋になると黄金色に色づき、この地上にその光を降り注いでいるというものであった。 「桂月」というときは黄金色に輝く月を指した。「月桂」は月の光を指し、地上にあまねく降り注ぐ仏教のあり難い教えを比喩するようになった。これが島子の院号の意味である。 現実の樹木の「桂」は、日本と中国で異なっている。日本では高級建築用材として知られている葉の直径ほどの葉柄の先にハート型の丸い葉が対生するカツラ科の木で、訓読みは「香出る」からと言われている。一方中国では日本で言うニッキ(肉桂)のことで、樹皮や根を薬用にするクスノキ科の木を指している。 Laurelはクスノキ科であり、その葉を乾燥させてカレーなどの料理の香料として使われることなどは、中国の「桂」の系統であるように感じられる。 なお、日本ではLaurelに先行して入ってきたホルトの木、橄欖、オリーブなど料理用の油が得られる樹種を「月桂樹」と呼んだ形跡がある。黄金色に輝く油を古来からの「月桂」に比喩したのだろうか。 |