カテドラルは、丹下健三氏が代々木のオリンピック体育館を設計した直後に設計したもので、当時の建築基準法の高さ制限を越えていた。特例許可手続きの申請者は、その後ローマ法王庁のアジア人初の枢機卿になった土井辰雄東京教区長だった。昭和41年丸の内の東京海上ビルの美観論争で資料集めを命じられていた私は、カテドラルの許可申請書からもデータを写し取った。既に多くの書類は横書きになっていたが、土井司教の申請書は縦書きで、申請文は誠意溢れるものだった。 多くの人々が法を守ってきていることを宗教者として深く認識していることを表した上で、丹下氏の設計が崇高な宗教理念をいかに表しているかを説明し、やむを得ず特例措置を求めることを丁寧な言葉で綴っていた。私は職務柄その後多くの申請書に係わってきたが、あれほど心の篭っているものには出会わなかった。当時の高さ制限規定は廃止されているので、行政上保存価値のなくなったあの申請書は疾うの昔に東京都の倉庫から廃棄処分されているだろう。 |