この寺は、図会が紹介していた高輪に落ち着くまでに3回移転しており、移転癖が付いていたともいえる。
高輪からここ神奈川県伊勢原への移転は東京オリンピックの前年だが、オリンピックに伴う道路工事などに依るものではない。
最寄りの電車駅は、小田急小田原線伊勢原駅である。駅北口を出て大山詣での鳥居を抜けて広い道路に合流、1km弱で国道246号との伊勢原交差点に出る。この交差点をそのまま渡って300m余りに「伊勢原高校入口」交差点がある。
駅からここまでの道は、湘南地域からの大山詣でのルートで、右の伊勢原高校方面の細い道は江戸からの参詣客が往来した道、つまり渋谷に通じる現246国道の原形である。この交差点を左折して緩やかに登っていく。東名高速道の防音壁が視界を遮る(左図右下)が、この下を抜けて側道信号を渡って100mで広い道に出る。
太平洋戦争で廃止されていたケーブルカーが昭和40年に復活して以降は、行楽シーズンになると参詣客というよりもハイカーを乗せたバスがこの道を往復するようになった。右歩道で50mあまり、コンビニの前まで進むと目の前で歩道がなくなり、上行寺の看板が立っている。右へ50mほどの右、つまりコンビニの裏に、図会が芭蕉の高弟宝井其角の墓所として紹介している上行寺がある。駅からは2.7kmの行程である。
寺には高輪から移された其角の墓があり、毎月句会が行われている。平成24年4月に私が訪れた直前に「其角忌」が催され、境内は俳画と俳句に彩られた雪洞が立ち並んでいた。本堂は、高度成長期を迎えた頃の未来にチャレンジする明るい近代的なデザインである。
駅との往復5km余りのサイクリングではもの足りないという向きには、平塚の湘南海岸まで上行寺から約12kmである。広い道を直進して南下すると伊勢原工業団地の東側にそれなりの坂があったりするが、駅へ戻ってのルートは高輪周辺よりも穏やかな相模平野西部の田園地帯でもある。
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